認知症と夜間徘徊
超高齢社会となって認知症の問題が深刻さを増しています。核家族化、少子化により家庭内の介護力が不足しているためです。認知症で見られる異常行動の中でも、昼夜逆転や夜間徘徊(はいかい)があるととりわけ在宅介護が難しくなります。老老介護の果てに、介護をしていた方が先にダウンしてしまうことも少なくありません。
認知症外来では“夜中に寝てくれない”という相談が多いのですが、残念ながら効果的な薬物療法がないのが現状です。睡眠薬や抗精神病薬などの向精神薬によって一時的に眠れたように見えても、しばらくすると効果が乏しくなってくることが多いためです。むしろ、向精神薬が体に蓄積し午睡(居眠り)が増えるために、かえって夜中の眠りが浅くなることもしばしばです。
認知症では、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群、レム睡眠行動障害、睡眠時こむら返りなど、さまざまな睡眠障害が高頻度に認められますが、ご本人は症状を適切に説明できないため誤診による誤った治療を受けているケースも数多くあります。
また、不眠のように見えても、実は昼間に熟睡しているなど睡眠リズムが崩れているパターンの方が多いことも向精神薬の効果が出にくい一因です。1、2週間でよいので、昼と夜の両方の生活リズムの記録を取って医師に相談することで、不眠型かリズム障害型か見分けることができます。
米国アルツハイマー病協会では、認知症の昼夜逆転に対しては、昼寝を減らす、デイケアなどを通じて日中の活動を高める、十分に太陽光を浴びて睡眠リズムを整える―などの生活療法を薦めています。
興奮や攻撃性、妄想などがあってやむを得ず鎮静剤を使う場合にも、3カ月ほど服用したら眠気などの副作用が出ていないかチェックし、必要に応じて減薬するなどこまめな調節が必要です。